カギ括弧をどう付けるかで迷った一首。日経歌壇(9月2日) 穂村 弘 選(評)「現金が欲しい」よりも「あげます」に時代の怖さを感じる。
「あげます」という匿名の声の気持ち悪さにスポットを当てるため、
最初の、現金が欲しい、にはカギ括弧を付けなかった。
コピーライティングの基本として、
必要以上にカギ括弧を使うのは好ましくないと誰かに聞いた記憶があるけど、
短歌の場合はどうなんだろう。
今日は同じ欄に響乃さん(本多真弓さん)の歌も載っていた。
嫁として帰省をすれば待つてゐる西瓜に塩をふらぬ一族 (本多真弓)学生の頃バイトをしていた職場で、
盆休み前後の人が少ない時期のシフトで
たまたま一緒に昼食をとったパートのおばさんに振られた話題が、
まさにこの短歌と同じ内容だった。
もしかしたら、あれは響乃さんだったのかもしれない。
「一族」という言葉が怖くていいなと思った。
僕はふらぬ側の人間。
ささいな所作ひとつに注目することで、
そこを基点に世界が二分されて見えるのが面白い。